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事業計画書の作り方、新規ビジネスの考え方


2017-10-06
Takuo Kihira

最近、起業を目指している方などから相談を受ける時に、「事業計画書ありますか?」と雑に聞き返すことが多くなってきました。一般的には「事業計画書に何を書けばいいのか?」をわからない人の方が多いでしょう。今回の記事で、事業計画書で重要な事項について解説します。

事業計画書は一般的に起業家が投資家に見せるために用意するものですが、誰に見せてもすぐにビジネスを理解してもらえることを目的に書くのが良いと思います。株の持ち分や個人情報などの機密情報もあるので公開されることはないですが、業界外の人がみても理解出来るように、かつ途中で飽きないように簡潔に書かれていると素晴らしいでしょう。

事業計画書で重要なことは、そのまま起業において大切なことに繋がります。わかりやすいように、なるべく具体的な例を出しながら解説したいと思います。

事業計画書に書かれているべきリスト

まずは早速、事業計画書に書かれているべき項目を列挙します。一般的にはこれらをスライドにまとめますが、これらが書かれていればWord文書だろうがMarkdownだろうが良いと思います。

  1. 事業のミッション・ビジョン
  2. 事業概要
  3. 起業メンバー紹介
  4. 基礎となる技術
  5. ビジネスモデル
  6. 市場規模
  7. 競合他社の分析
  8. 製品開発スケジュール
  9. 将来の計画

読みやすいように書かれていれば、それぞれの項目の順番は大事ではありません。シード(会社を作る直前、もしくは作った直後)で特に大事なのが1番〜6番までで、ここはしっかりと書いてあると良いでしょう。

ではそれぞれについて軽く解説します。

事業のミッション・ビジョンならびに事業概要

ミッション・ビジョンと意識の高い単語を使いましたが、具体的には「事業の使命」が最初に書かれてあると良いです。使命とは、何を目的に会社を作るのか、会社が存続する限りまず変わらないお題目です。

具体的な事業と混同してしまう方も多いので例を出してみましょう。Googleの場合は “to organize the world’s information and make it universally accessible and useful.” (全ての情報を整理し、普遍的にアクセス可能で有用なものにする)というミッションを掲げています。そしてそれを実現するために、例えば検索エンジンを作ったり、人工知能を作ったりしています。

最初にこれがはっきりと簡潔にかかれてあると、会社の将来の成長イメージが想像しやすくて良いと思います。そしてその後に、具体的にどうやってミッションやビジョンを達成するのか、具体的な事業の概要が続くと大変読みやすいです。

ひとつ注意として、社内用のミッション・ビジョンをそのまま事業計画書に書く場合、それがわかりやすい時はそれで良いのですが、投資家にわかりやすいキャッチコピーにした方が良いかもしれません。

事業概要は、あまり細かすぎない範囲でわかりやすく伝わるのがベストです。具体的には「現在どのような問題があるか」「どのような事業を展開するか」「それによって問題がどう解決するか」ということがはっきり書かれていると良いでしょう。

起業メンバー紹介

メンバー紹介は軽視しがちですが、とても大切です。過去の経歴なども気になりますが、一番気になるのは「なぜこのメンバーがこの事業をするのに向いているのか」ということです。

たとえば大学の学部、前職の経験、プログラミングやセキュリティコンテスト、そういった経歴が今の事業にどのようにプラスになるのか、そういったことが盛り込まれていると良いでしょう。この事業でどのようなことを担当するのかについての紹介もあると嬉しいです。

なお、一人で起業するというのはあまり好まれない傾向があります。意思決定の多様性やスピード、一緒に起業する人すら口説けないのでは起業は難しい等々理由は色々とあるのですが、一人の場合は「なぜ一人がベストなのか」についての強い理由付けが必要でしょう。

基礎となる技術ならびにビジネスモデル

事業計画書において、ここが一番大切です。どのような技術を利用して事業を推進するのか、そしてどのように事業を推進するのか、という点です。

まず技術ですが、「自分たちしか持っていない明確な武器」を示すことが出来ればベストです。特許などの知的財産であったり、既にサービスを行いユーザーが多数いるという事実でも良いです。他の人が真似できないことを示します。

…とはいえ、実際には「世界で自分たちだけ」というものなんてそうはありません。その場合は、「この事業を推進出来る人はほとんどいない」ということを示しましょう。希少性が高ければ高いほど事業の価値が高まります。

具体的な例で説明しましょう。たとえばビットコインをブラウザで発掘し、広告の代わりに運用出来るようなサービスを考えたとしましょう(coin-hiveというサービスを念頭に置いています)。大変良いアイデアだと思いますが、もし自分たちよりも圧倒的に優秀で実装力のあるスタートアップが真似してきた場合に、どのように対抗すると良いでしょうか?ここで「自分たちにしか出来ない」ことを明確に示すことが出来ず、例えば「先行しているのでビジネスの理解度に優れます」とか「値下げすることによって対抗します」とかの言い訳しか出てこないようであれば要注意です。

大変うまく行っている例として、例えばサイボウズの「日本の商習慣に密着したサービスを高いITレベルで提供」というのは、そう簡単に真似が出来ません。超優秀なエンジニアは商習慣とか知りませんし、商習慣に詳しい人はITに疎いことが多く、両者を兼ね備えた人はかなり稀有な存在であり(特にサイボウズ起業当初は)、希少性は間違いなく高いでしょう。

技術的に希少性が示せない場合でも、ビジネスモデルで示すことが出来ます。ビジネスモデルというのは、事業がどのように人を呼び、お金を生み、客を増やし、ポジティブなサイクルを形成するか、を示すものです。

例を示しましょう。例えば先程のビットコインの場合、もしビジネスモデルが「30%の手数料」しかないとすると、他のサービスが格安の手数料を出してきたら破綻することになります。

よくあるのは、一度使い始めるとデータが蓄積され、他のサービスに簡単に移行できない、というものがあります。もしくはLINEのように、周りのみんなが使っているので他のサービスを使えない、というのもあります。もっとも、これらを事業計画書に書くのは簡単なのですが、実際のビジネスではその状態まで持っていくのが相当難しいので説得力に劣ります。

一般的に「アイデア一発」での起業は優秀な学生たちに真似されればあっという間に廃れてしまいますし、すぐに競争状態に入るビジネスの場合はコンサルタントのような競争のプロとの苛烈な競争で疲弊してしまいます。他の人が簡単に真似出来ないことを、これらの章でしっかりと示しましょう。

市場規模

投資を募るスタートアップの場合、どれだけ優れたアイデアであっても大きな会社に成長する余地がなければほとんど評価されません。どれだけ大きな会社になる可能性があるのかを語るため、事業計画書の中で市場規模を示すのは大切です。

市場規模は上から示すやり方と下から示すやり方とがあります。上から示すやり方は対消費者向けビジネス(B2C)でよく利用されます。例えば、占い業界は日本で1兆円の市場規模で、IT化されているのが10%でこの割合は伸びつつあり、そのうち我々はシェア2割を目指すので、売上は最終的に年間200億円を狙える、みたいな感じです。

一方で下から見積もる市場規模は対ビジネス(B2B)で活用されることが多いです。例えば1飲食店あたり年間平均20000円の売上を予測しており、日本では飲食店が50万店舗くらいあるので市場規模は全体で100億円というような形です。(なお100億円はちょっと小さい市場規模ですね。限界まで成長しても売上100億円で頭打ちになってしまいます。シェア20%だとしたら年間売上20億円、上場すら厳しいレベルです)

今回は両方の例とも特に下調べもせず相当適当に書きましたが、この手の推定をする場合には信頼できる資料を用意し、出典を明記しましょう。そうしないとただでさえ説得力に乏しいものがさらに胡散臭くなります。省庁発行の白書や、ネット上の調査会社の公開資料などがよく使われます。また確率の推定をする際は大勢の人が納得する一番悲観的な数字を用意しましょう。ここで楽観的な数字を見ると、事業全体も怪しく思えてしまいます。

事業計画書を読む人はここら辺の計算感覚はとても優れており、隠してもその場で計算して大体の見積もりを出せる人がほとんどです。多少不利な現実があったとしても下手に繕わず、堂々と書くようにしましょう。

競合他社分析

競合他社が既にある場合、その会社とはどう違うのか、ということを明記しましょう。その際、真っ向からの競争ではなく、自分たちの特色を活かしてあっという間に大きなリードを作れる、というストーリーが組めるとベストです。

競合他社が思いつかない時は、似たような業種で似たようなビジネスをしている会社を例に出し、自分たちのビジネスはその業種の成功者と近い、というようなことを書いておくと良いかもしれません。競合がいないというのはメリットでもありますが、誰もそこに参入していないのは単純にビジネスがうまく行きそうにないから、という可能性もあります。なぜ競合がいないのかの理由付けも一緒に説明出来るようになっているとベストです。

シードラウンドの場合、競合他社分析はそこまで詳細に書く必要はないですが、気をつけなければいけないのは「明確な競合を漏らさずに書く」ことです。例えばイベント予約サービスを考えている人がPeatixやConnpassを競合に書いていない場合、「もしかしてこの人は何もしらないかも…」と思われかねません。気をつけましょう。

製品開発スケジュールや将来の計画

将来の計画は、所詮絵に描いた餅ではあるのですが、特に投資家にとっては事業の将来を想像するための助けになります。書ける範囲で書きましょう。

たとえば、「このようなイベントを経る必要がある」というようなマイルストーンに関しては書いておくと良いと思います。例えば導入社が100社を超えたタイミングで導入社同士の連携を取る新プロダクトサービスを導入する、みたいなものです。自分たちのビジネスモデルを実現するために、どういう順番でどういうイベントを達成していくのかについて、ある程度でもまとめておくと良いかなと思います。

最近はサービスローンチまでは自力で到達する方も多いので、そういう方は売上とユーザー数の実績、それに続く将来の計画が書かれていると大変良いです。

最後に

以上が大体の事業計画書の内容です。自分の考えているビジネスの内容に応じて、適当に追加したり削除したりしてください。

事業計画書はビジネスの数だけ形式が存在し得ると思います。ここまで色々書いておいてなんですが、私の書いたことをそのまま信用しないでください。例えばUberは参入障壁が低く誰でも真似できるサービスですが、それでもユニコーンと呼ばれるくらい大きく成長しています。特定の業界に対するビジョンを持たず、ただ市場のある所、お金の匂いのする所に参入して時価総額が10兆円を超えたソフトバンクという会社もあります。ビジネスに定型なんてありません、例外だらけです。ここで否定されているからといって、真に受ける必要はありません。

会社設立前後のシードラウンドでの事業計画書の場合、スライドで10枚〜15枚くらいで収まっていると良いと思います。短ければ短いほど良いのですが、内容が抜けていてもいけません。事業計画書がひとり歩きしても困らないように、かつ説明しすぎないように上手く推敲してください。

個人的に、事業計画書を作っている時が起業で一番楽しい時期だと思います。事業計画書を書くというのは、「こんなビジネスの枠組みを作ったらどうだろう」「こんな風にサービスを展開するとどうなるだろう」と色々空想し、その結果をまとめる作業だと思います。事業計画書を作らずにサービスを作り始めてしまう人が結構多いのですが、とても勿体無いです。ぜひ作ってみてください。